ファッションに関わる仕事として最も門戸が広いのは、現場に立つ販売員でしょう。同じ販売員と言っても、ユニクロのように接客にはほとんど付かないものから、オーダー・メイドのスーツのようにぴったりと接客を行うものまで、グラデーションがあります。ただ、これらすべての販売員に共通することは、販売員自身が自社の商品の宣伝を行うマネキンであるということです。洗練されたコーディネートによって自社商品の魅力を伝えるのです。
コーディネートの基本は、絵画における基本と共通する部分があります。色と形、です。
同系色でコーディネートすることでまとまりが生まれますし、形に注意するだけで見栄えが大きく変わります。
まず、色に関して述べましょう。
色彩とは関係性です。個々の色へ意識を集中させるだけではなく、色同士のつくり出す調和に目を向けるとよいでしょう。ある色を目立たせるために他の色が後ろに引くこともあるでしょうし、個々の色が同程度に主張をする緊張感のある関係もあるでしょう。例を挙げると、白シャツに赤のタイを合わせることが前者であり、濃紺のシャツに黒のタイを合わせることが後者です。個別の色だけでは見えてこない魅力を引き出すことが可能になります。
次に、形です。
形は流行に左右されることが大きいものです。男性で言えば、細身が中心であり続けていましたが、昨今は余裕のあるシルエットが好まれています。その時代のスタイルによって同じ形でも時代遅れになり得てしまうのです。
基本的には体に沿ったものがよいと言われますが、人間の体は左右非対称ですし必ずしも美しいものでもないので自分の体に合わせればよいというものではなく、形はある程度矯正の役割も果たしています。
色と形の中で、形というのは体に合わせる必要があって完全な自由度はありませんが、色はある程度自由になります。髪の色や目の色、肌の色がありますから制約はありますが、鞄や靴を含めて、自分なりの正解を探していく作業は知的興奮に満ちています。
(服装というのは同じ組み合わせをすることは少なく、それゆえに刹那的であります。この消え去っていくところにも魅力があるのではないかと感じています。それゆえ、美術館でのファッションの展覧会は魅力に乏しいのかもしれません。)
朝はなかなか時間に余裕がなくて、自分が完全に納得できる服装をすることは難しいのですが、自分の着るものを決めることは、創造性に満ちた行為だと思います。
栗野さんは、毎日コーディネートを決めて、着てみて、全身を鏡に映して吟味しているのだそうです。たしかに、外に出てから靴下と靴の色の組み合わせが微妙に想像と違っていた、なんてことはあり得ますから、非常に有効ですね。
ファッションを仕事にしなくても、何も身につけずに出歩くわけにはいかないのでファッションから離れることは事実上不可能です。どうしてもついて回るファッションですが、楽しむことはできますので、明日は少し早起きをして、色と形において創造性を発揮してみるとよいのではないでしょうか。
